退職所得の税務上の注意点

事務所だより

 退職金を受け取った場合の税務上の取り扱いについて、今回はその計算方法や注意点を確認していきます。

退職所得とは

 退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当や功労金などの所得をいい、初回保険制度などにより退職に起因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社または信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます。

役員が分掌変更した場合の注意点

 分掌変更とは、一般的に社長や取締役が退任の後、例えば会長や監査役として、引き続き会社に残ることを言います。その際に支給される退職金は、次のように分掌変更により役員としての地位や職務の内容が激変して、実質的に退職したと同様の事情にある場合にのみ退職所得として認められます。

・常勤役員が非常勤役員になったこと。ただし、常勤していなくても代表権を有している場合や、実質的にその法人の経営上主要な地位にある場合は除かれます。

・取締役が監査役になったこと。ただし、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている場合は除かれます。

・分掌変更の後の役員給与がおおむね50%以上減少したこと。

 これらの要件を満たしていない場合は、役員賞与として給与所得の対象となりますのでご注意ください。

退職所得の計算

収入時期

 退職金がいつの年分の所得となるかは、収入すべきことが確定した日がいつであるかにより判定します。

 一般的には、支給の起因となった退職の日となりますが、役員に対するものについては、その役員の退職後、株主総会の決議があった日など、支給金額が具体的に定められた日とされます。

退職所得の計算方法

 退職所得の金額は、原則として、次の計算式を用いて計算します。

<計算式>

(収入金額ー退職所得控除額)×1/2

 この場合の「退職所得控除額」は、下表のように計算します。

勤続年数(=A)退職所得控除額
20年以下40万円×A
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超800万円+70万円×(A-20年)

 なお、勤続年数に1年未満の端数がある場合には1年として切り上げ、障碍者になったことが原因で退職した場合の退職所得控除額は、100万円を加えた金額となります。

 更に、前年以前に退職金を受け取ったことがあるときや、同一年中に2か所以上から退職金を受けとるときなどは、控除額の計算が異なるケースがあります。

特定役員退職手当等の計算

 退職金に係る勤続期間のうち、役員として勤務した期間の年数が5年以下である方が支払いを受ける退職金については、前記の計算式のうち、1/2計算の適用はありません。

短期退職手当等の計算

 役員以外として勤務した期間の年数(役員として勤務した期間がある場合はその期間も含めます)が5年以下である方が支払いを受ける退職金については、退職金の額から退職所得控除を差し引いた額のうち300万円を超える部分については、前記の計算式のうち、1/2計算の適用はありません。

 死亡退職金の取り扱い

 死亡退職に伴い支払われる退職金は、原則として「みなし相続財産」となり、相続税の課税対象となります。

 したがって、亡くなった方本人の所得税及び、復興特別所得税(所得税等)及び住民税の課税対象とはなりません。

退職所得の税額計算

「退職所得の受給に関する申告書」の提出をしている場合

 退職所得は、原則として給与所得などの他の所得と分離して所得税等を計算します。退職金の支払先に対して、「退職所得の受給に関する申告書」の提出をしている場合は、その支払者が所得税等や住民税を計算し、その支払いの際、退職所得の金額に応じたこれらの税額が差し引かれるため、原則として確定申告は必要ありません。ただし、給与所得などの他の所得が少ない場合などは、医療費控除や寄付金控除の適用により、源泉徴収により差し引かれた税額が確定申告で還付になる場合もあります。

 差し引かれる税額の例は、下のとおりとなります。

【計算例】

退職金の支給額 2,000万円

勤続年数29年6ヶ月⇒30年(1年未満の端数切り上げ)

1,退職所得の額

(2,000万円-1,500万円※))×1/2=250万円

※退職所得控除額

800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円

2,税額

(1)所得税・復興特別所得税×102.1%

(250万円×10%-97,500円)×102.1%=155,702円

(2)住民税(10%)

250万円×10%=25万円

「退職所得の受給に関する申告書」の提出をしていない場合

「退職所得の受給に関する申告書」の提出をしていない場合は、支払者退職金の支給額に20.42%の税率を乗じて計算した所得税等の額を源泉徴収します(住民税は考慮しません)

 この場合、受給者が確定申告を行うことにより最終的に税額が清算されますが、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無にかかわらず、税額が変わることはありません。

【参考資料】国税庁「退職金を受け取ったとき」