個人事業者が青色申告により所得税を計算する際には、事業規模や帳簿の記帳状況に応じて「65万円・55万円・10万円」のいずれかを所得金額から差引く青色申告特別控除を適用することができます。
令和9年分以後に適用される改正所得税法について、その要件や控除額が改正されましたので、ポイントをみていきます。
青色申告特別控除とは?
所得税法は、納税者が自ら税法に従って所得金額と税額を正しく計算し、納税するという申告納税制度を採用しています。この計算に当たり、一定の基準の記帳をし、その記録に基づいて正しい申告をする納税者に対して税金面などで有利な取扱が受けられる制度があり、これが「青色申告制度」であり、「青色申告特別控除」はその代表的な特典の一つです。
青色申告をすることができるのは、不動産所得・事業所得・山林所得のある方です。
なお、青色申告の控除は、原則として複式簿記による損益計算書を作成することが原則ですが、現金出納帳や売掛帳、買掛帳、経費帳などを備え付けて簡易な記帳(簡易簿記)をすることでも認められています。
2 令和8年分までの控除額
令和8年分までの所得税についての適用要件と控除額は、以下の通りです。
(1) 65万円控除
基本的な適用要件として、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいる納税者が、これらの所得に係る取引について正規の簿記の原則(一般に複式簿記)による記帳を行い、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に確定申告をしていることが必要です。
さらに、加えて次の①②のいずれかの要件を満たしている場合に、65万円控除を適用することが可能です。
①e-Taxを利用して電子申告をしていること
②電子帳簿保存法に基づき、修正削除の記録などが一定の条件を満たす電子帳簿(以下「優良な電子帳簿」という)で帳簿の保存等を行っていること
(2) 55万円控除
納税者が、複式簿記による記帳を行っているが、上記①②を満たさず書面で期限内申告している場合は、55万円控除が適用になります。
(3) 10万円控除
①②に該当しない青色申告者(簡易簿記による記帳を行っている場合および山林所得)は、10万円控除が適用になります。
3 令和9年分以後の控除額
令和9年分以降の所得税については、控除の適用要件を見直した上で、控除額が「75万円・65万円・10万円」の3種類となります。【表1参照】
75万円控除(新設)
前記2(1)の納税者(改正前の65万円控除適用者)がe-Taxで期限内申告をすることに加え、次の①②のいずれかの要件を満たしている場合、75万円控除を受けることができます。
- 優良な電子帳簿による保存等を行っていること
- 請求書等のデジタルデータを自社で保存し、帳簿に連動連携する機能を有するソフトを利用していること
65万円控除
前記2(2)の納税者(改正前55万円控除適用者)が、e-Taxで期限内申告をする場合、控除額は65万円となります。
10万円控除
前記2(2)の納税者(改正前55万円控除適用者)が、書面で確定申告をする場合、控除額は10万円となります。
また、簡易簿記で帳簿付けしている納税者については、前々年分の事業所得または不動産所得の収入金額が1千万円超の納税者を除き、改正前と同様10万円控除を適用することができます(詳細は後述の4を参照)。
表1 令和9年分以後の控除額
| 条件 | 控除額 |
| 複式簿記 + 電子申告 +(①・②のいずれか) ① 優良な電子帳簿(訂正削除履歴) ② 請求書データ等との自動連携 | 75万円 |
| 複式簿記 + 電子申告 | 65万円 |
| 複式簿記(書面申告) | 10万円 |
| 簡易簿記【対象を限定】 | 10万円 |
※国税庁資料より
4 留意事項
この改正の中で特に注意を要するのが、10万円控除の適用です。令和9年分から、その年において不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営む納税者のうち、複式簿記によらず簡易簿記による記帳を行っている者のうち、その年の前々年の不動産所得または事業所得に係る収入金額が1千万円を超える方は、表2のとおり、10万円の青色申告特別控除が適用できなくなります。【表2参照】
表2 令和9年分以後の10万円控除要件
| 収入金額(不動産所得・事業所得) | 改正前 | 改正後 |
| 2年前 1,000万円超 | 【簡易簿記】10万円 | 【簡易簿記】0万円(控除対象外) / 【複式簿記 + e-Tax】65万円または75万円 |
| 2年前 1,000万円以下 | 【簡易簿記】10万円 | 【簡易簿記】10万円 |
【不動産所得】
不動産の貸付けが「事業的規模」で、前々年の収入金額が1,000万円超の場合、10万円控除を適用することはできません。事業的規模かどうかは社会通念に照らして実質的に判断しますが、建物の貸付けについては、貸間・アパート等なら貸与できる室数がおおむね10室以上、独立家屋の貸付けはおおむね5棟以上であれば事業的規模と判断されます。
一方、不動産の貸付けが事業的規模に達していない「業務の規模」の場合、改正前と同様に最大10万円の控除を適用することができます。ただし、業務的規模の方は、複式簿記に移行したとしても、控除額は最大10万円となります。
【事業所得】
前々年の収入金額が1,000万円超の場合には、10万円控除を適用することはできません。
【事業的規模の不動産所得・事業所得】
「複式簿記+e-Tax」に加えて、「優良な電子帳簿」または「請求書データ等との自動連携」の要件を満たす場合、75万円を控除することができます。
【山林所得】
改正前と同様、10万円控除を適用することができます。