源泉所得税チェックポイント

事務所だより

 所得税法では、特定の所得の支払いの際に支払者が所得税を徴収して国に納付する「源泉徴収制度」を採用しています。

 源泉徴収する必要がある特定の所得には、個人が受給する俸給や給料、賃金、賞与、又は原稿料や講演料、弁護士等に支払う報酬・料金、利子・配当や退職手当、公的年金などがあります。源泉徴収事務が発生する場面は多く、注意しないと思わぬミスが生じることがあります。

 今回は、源泉所得税の中で特に取り扱うことが多い項目について注意事項をみていきます。

 税額表の種類と適用区分

 給料や賃金など賞与以外の給与を支払う場合、所得税を源泉徴収して国に治める義務のある者(以下源泉徴収義務者)は、その支給の形態に応じて該当年分の「源泉徴収税額表」を適用して源泉徴収する所得税額を算出し、同額を差し引いた残額を受給者に支給します。そして所定の納付期限までに、徴収shした源泉所得税額を国に納付します。

 月額票と日額表

 源泉税額表には月額表と日額表があり、給与の支給携帯に応じて適用する税額表の区分が定められています

【表1】源泉徴収税額表の適用区分

税額表の区分給与等の支給区分税額表の使用する欄
月額表(1)月ごとに支払うもの
(2)半月ごと・10日ごとに支払うもの
(3)月の整数倍の期間ごとに支払うもの
甲欄・・・扶養控除等申告書を提出している人に支払う給与等
乙欄・・・その他の人に支払う給与等
日額表(1)毎日支払うもの
(2)週ごとに支払うもの
(3)日割りで支払うもの

日雇賃金※
甲欄・・・扶養控除等申告書を提出している人に支払う給与等
乙欄・・・その他の人に支払う給与等
丙欄

 アルバイトやパートタイマーのうち、日々雇い入れる者に対してその日に支給する給与がある場合、通常は「日雇賃金」として日額表・丙欄の源泉税額表を適用しますが、継続して2か月を超えた日から日額表・丙欄を使うことが出来ませんので注意が必要です。

 扶養控除等申告書の有無

 また、給与の受給者が源泉徴収義務者に「給与所得者の扶養控除等申告書」(以下「扶養控除等申告書」)を提出しない場合、適用する源泉税額表は月額表・乙欄になります。

 昨今、副業を認めている企業も多く、受給者が本業を有し、扶養控除等申告書は本業の勤務先に提出する例が多々見受けられます。受給者の就業状況をよく確認し、扶養控除等申告書の提出がない場合は誤りなく月額表・乙欄の源泉税額表を適用する必要があります。

 更に、最近は受給者が外国人で、外国に居住している親族を扶養控除や配偶者控除の対象にする例もあると思います。この場合は、親族関係書類と、扶養に係る送金関係書類(外国語で記載されている場合はこれらの翻訳文も含む。)の提出又は提示を受ける必要があります。

 通勤手当等

 通勤方法による違い

 交通機関を利用して通勤する従業員等に対して支給する1か月あたりの通勤手当は、通勤距離にかかわらず、合理的な運賃等の額(最高限度15万円)まで非課税として取り扱われます。

 一方、自転車や自動車などの交通用具を使用している従業員等に対して支給する1か月当りの通勤手当は、通勤距離が片道2km未満であれば支給額全額が給与として課税されますが、片道2km以上であれば、その通勤距離に応じて非課税限度額が定められています。

【表2】通勤手当等の非課税限度額

区分課税されない金額
交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当1か月あたりの合理的な運賃等の額(最高限度150,000円)
自動車や自転車で通勤距離が片道55km以上31,600円
自動車や自転車で通勤距離が片道45km以上55km未満28,000円
自動車や自転車で通勤距離が片道35km以上45km未満24,400円
自動車や自転車で通勤距離が片道25km以上35km未満18,700円
自動車や自転車で通勤距離が片道15km以上25km未満12,900円
自動車や自転車で通勤距離が片道10km以上15km未満7,100円
自動車や自転車で通勤距離が片道2km以上10km未満4,200円
自動車や自転車で通勤距離が片道2km未満(全額課税)
交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券1か月当たりの合理的な運賃等の額(最高限度150,000円)
交通機関又は有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券1か月当たりの合理的な運賃等の額と通勤距離の金額との合計額(最高限度150,000円)

 非課税限度額の注意点

アルバイトやパートタイマーに通勤手当を支給する場合、その非課税限度額は、出勤日数に応じた日割り計算によらず、それぞれの人の1ヶ月分の支給合計額により非課税限度額をみることになります。

 なお、パートタイマー等に支給する通勤手当を非課税として取り扱うためには、給与と通勤手当を明確に区分して支給する必要があります。

 報酬・料金

 フリーランスの個人事業者にポスターやパンフレット、コマーシャルフィルムの作成などのためのデザイン料、原稿料等を支払った場合は、報酬・料金として源泉徴収の対象になります。

 報酬・料金に係る源泉所得税は、1回の支払金額が100万円以下であれば支払金額に10.21%を乗じて算出します。受領した請求書で報酬・料金の額と消費税等の額が明確に区分されていれば、次の計算例のとおり、その報酬・料金の額のみを源泉徴収の対象とすることが出来ます。

(計算例)

報酬の請求額10万円(①)

報酬に係る消費税額1万円(②)

源泉所得税①×10.21%=10,210円(③)

差引支払額99,790円(①-③+②)

 まとめ

 この他にも、源泉徴収の対象となる支払いには様々なものがあります。その支払いが源泉徴収の対象となるかどうか、勘定科目ごとに常にチェックし、課税漏れが生じないよう配慮することが肝要です。

【参考資料】国税庁令和6年版源泉徴収の仕方