消費税の納税義務者とは

事務所だより

 いよいよ本年の10月よりインボイス制度が導入されます。今回は、免税事業者がインボイス発行事業者の登録(以下、「インボイス登録」)を行い課税事業者になる場合を考え、消費税の制度や手続等について見ていきます。既に課税事業者である方は制度のおさらいを兼ねてご確認ください。

3月事務所だより

 消費税については、

① 基準期間(法人の場合は前々事業年度、個人事業主の場合は前々年)の課税対象となる収入(課税売上)が、1000万円を超える場合

② 特定期間(法人の場合は前事業年度の開始から6か月、個人事業主の場合は前年の1月から6月までの期間)の課税売上高及び給与等支給額が1000万円を超える場合

③ ①、②に該当しない場合であっても、インボイス登録を選択した場合

などが納税義務者となります。

 更に、多額な設備投資を行う等の理由により消費税の還付を受けたい場合は、自主的に納税義務者となることができます。

課税事業者となる場合の届出

 前述の①に該当することになった場合は、「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」、②に該当することになった場合は「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を、速やかに提出することとされています。

 次に③の場合についてですが、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス登録を受けることとなった場合には、登録日から課税事業者となり、「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。

 一方、インボイス登録をせずに納税義務者を選択したい場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を、選択しようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があるのでご注意ください。

消費税の計算方法

(1)原則

 納付する消費税の計算方法は、課税売上にかかる消費税額(売上税額)から、仕入れや経費に係る消費税額(仕入税額)を控除して(差し引いて)計算します。ただし、インボイス制度導入後は、原則として仕入税額を控除するためには、受け取ったインボイスの保存が必要となります。

(2)簡易課税制度

 (1)の原則計算による場合は、どうしても事務の煩雑さを伴います。インボイス登録のために課税事業者となる方などにとっては、この計算が負担になることも考えられます。

 そこで、基準期間の課税売上高がが5000万円以下の場合は、届け出により「簡易課税制度」による計算が認められています。

 この制度は、課税売上にかかる消費税額に、それぞれの事業に応じた一定の「みなし仕入率」を掛けた金額を仕入れや経費に係る消費税額とみなして納付税額を計算するものです。

簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率

事業区分該当する事業みなし仕入率
第一種事業卸売業90%
第二種事業小売業、農林漁業(飲食料品)80%
第三種事業製造業、農林漁業(飲食料品除く)70%
第四種事業その他事業(飲食店業等)60%
第五種事業サービス業等50%
第六種事業不動産業40%

 なお、この制度を選択した場合は、インボイス制度導入後であっても、仕入れ税額にかかるインボイスの保存は不要となります。

 例えば、事業区分がサービス業に該当し、課税売上に係る消費税額が80万円であった場合は、みなし仕入れ率が50%となるので、40万円が納付税額となります。

 ただし、みなし仕入率により納付税額を計算するということは、実際の仕入税額よりも仕入税額控除が少なくなることもあり、また、多額な設備投資を行って、本来であれば消費税額の還付となる場合であっても、還付を受けることができませんので注意が必要です。

簡易課税制度の届出

(1)原則

 簡易課税制度は届出により選択することが出来るもので、課税期間ごとに原則計算との有利不利を検討して適用できるものではありません。

 簡易課税制度を選択した場合は、原則として2年間継続した後でなければやめることが出来ませんので注意が必要です。

 そこで選択の届出についてですが、「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。なお、この届出をしていた場合であっても、基準期間の課税売上が5000万円を超えた課税期間は適用することが出来ません。また、一度届出をした場合は、「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しない限り、その効力は存続します。

(2)免税事業者がインボイス登録を行う場合の特例

 免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間にインボイス登録を受け、登録を受けた日から課税事業者となる場合は、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「消費税簡易課税制度選択届出書」を、(1)で述べた適用を受けようとする課税期間の初日の前日まででなく、その課税期間の末日までに提出することが認められています。

令和5年度税制改正(案)での変更点

 令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者がインボイス登録により課税事業者となる場合には、前述の簡易課税制度のような届出をせずに、課税売上に係る消費税額に80%を掛けた金額を仕入れや、経費に係る消費税額とみなして、納付税額を計算することが出来るようになります。

 したがって、簡易課税制度における事業区分に関係なく、課税売上に係る消費税額の20%を納付することになります。

                           【参考】国税庁「消費税のしくみ」