マンションの評価方法が大きく変わりました

事務所だより

~相続税評価額の増額にご用心~

 一般的に階数20階以上の超高層マンションはタワーマンションと呼ばれ、日当たりや眺望の良さはもとより、ラウンジなどの共用施設やセキュリティも充実していることから人気が高く、最寄り駅に直結する好立地の地区だけでなく、再開発地区にも多く建築されています。

 これらのタワーマンションは、居住目的で購入する以外に、投資対象又は、相続税の節税対策として富裕層に利用される傾向がありました。しかし、近年、タワーマンションを利用した過度な節税が見受けられ、これを制限する観点から区分所有マンションの評価方法の見直しが実施されました。

 そこで今回は、相続・贈与で取得したマンションの評価額の算出に係る見直し事項を見ていきます。

不動産の相続税評価額の算出方法

 相続税を計算する場合、被相続人が保有する相続財産を、それぞれの財産ごとに定められた評価方法により評価して課税価格を算出します。

 現金や預金であれば相続開始時点における残高の額が課税価格となりますが、不動産は次の計算により算出した金額が課税価格となります。

 ①土地

  路線価が定められている土地・・・路線価に土地の面積を乗じた上、不整形地や間口狭小など土地の形状に応じた補正を加えて算出(路線価方式)

  路線価が設定されていない土地・・・土地の固定資産税評価額に地域ごとに定められた倍率を乗じて算出(倍率方式)

 ②建物

  固定資産税評価額×1・0により算出

 この計算式により算出した課税価格は、その不動産の市場価格(時価)に比べて、土地であれば80%程度、建物であれば50%から70%程度になるといわれています。相続開始時点で保有している現金や預金はその残高全額が課税対象となるのに対して、同じ時価相当額の不動産を保有していれば、一定割合の評価額の減額が可能となります。これが不動産を保有することで相続税負担の軽減が期待できるとされる理由です。

改正前のマンションの相続税評価額の算出方法

 マンションも基本的には前記1の計算方法により評価額を算出します。

 ただし、マンションの土地は区分所有者の共有であり、所有者の持分はそれぞれの敷地権として表象されることから、土地部分の評価額は次のとおり敷地権割合を用いて算出します。

 マンションの土地部分の評価額=敷地全体の評価額(1①により算出)×敷地権割合(被相続人の専有部分の床面積÷区分所有者が所有するすべての専有部分の床面積)

タワーマンションを利用した節税とは?

 改正前においては、マンションの階層の相違は評価額算出の要素とされていませんでした。したがって、タワーマンションの低層階にある売買価格5千万円の物件と、高層階にある2億円超の物件について、床面積が同じであれば相続税評価額が同額という結果が生じたのです。

 この市場価格と相続税評価額の乖離(カイリ)に着目して、約14億円で購入したタワーマンションの居宅を3億3千万円と評価したうえ、他の財産・債務と合算して相続税額を0円として申告するなど、過度な相続税対策にタワーマンションが利用される事例が発生しました。

 一戸建ての乖離率の平均が1.66倍なのに対し、マンションの乖離率の平均は2.34倍に達していることがわかります。これは、市場価格1億円のマンションが、相続税の課税対象としては4千万円程度の財産と評価されていたということです。

 このような問題点の解決に向けて、タワーマンションを含む区分所有マンションの評価方法が改正されました。

改正の内容

 改正により、マンションの相続税評価額の算出に、「評価乖離率」と「評価水準」という新たな要素が加えられました【表】。具体的には、前述の方法で算出した従来の評価額に、評価乖離率と評価水準を適用して相続税評価額と市場価格の乖離を補正しようとするものです。

 評価乖離率は、築年数が浅く、かつ高層階にある物件ほど高く算出され、評価額が増額するように設定されています。具体的には、算出された評価乖離率が1.67倍を超えると評価水準は0.6を下回り(=市場価格の60%未満)、評価額が増額します。一方、評価水準が1.0を超える場合には評価額が減額されます。

まとめ

 改正により、評価乖離率が1.67倍を超えるタワーマンションの相続税評価額は市場価格の60%程度になるよう調整されました。今後、節税手段としてタワーマンションを利用することは大幅に制限されることを念頭に、相続税対策を検討することが必要になります。参考資料

表 改正後のマンションの評価方法

1 区分所有のマンションの評価額の算出(①+②)

①従来の区分所有権の価格×区分所有補正率(下記⑤)
②従来の敷地利用権の価額×区分所有補正率(下記⑤)

2 区分所有補正率の算出(③→④→⑤の順に算出)

③ 評価乖離率(A+B+C+D+3.220)
  A:マンションの築年数×△0.033
  B:マンションの総階数指数×0.239
  C:評価対象となる部屋の所在階×0.018
  D:敷地持分狭小度×△1.195
④ 評価水準(1÷評価乖離率③)
⑤ 区分所有補正率(評価水準④の範囲に応じて下記により算出)
  A 評価水準       ⇒ 評価乖離率③×0.6
  B 0.6≦評価水準④≦1 ⇒ 補正なし(従来の評価額で評価)
  C 1<評価水準④    ⇒ 評価乖離率③